保護具着用管理責任者について 4(災害事例)

労働災害防止に関する知識(建設業における災害事例)

有害性に起因する事故事例(1)

【事例】
室内で床に張り付いたラベルを剥がすために、有機溶剤入りのスプレーを吹き付けながら床に顔を近づけてヘラでラベルを削り取る作業を継続したところ、気持ちが悪くなり倒れました。部屋に換気扇はありましたが、有機溶剤用の防毒マスクを着用していませんでした。

【事故要因】
クリーナーには下の図のようなラベルが貼付されていました。
有機溶剤入りのスプレーのラベル表記

2.の「感嘆符」のマークは急性毒性や皮膚・眼への刺激性、皮膚感作性のような短時間での接触でも注意すべき化学物質が含有されていることを示しています。
3.に示す人の絵表示は「健康有害性」を示しており、呼吸器感作性や生殖細胞変異原性・発がん性を含め、⻑期影響を考慮すべき化学物質があることを示しています。
これらの絵表示から、このスプレーを使用する際には、耐溶剤性の手袋、眼を保護するゴーグル型のメガネ、吸入を防ぐための防毒マスクを着用することが必要であることが分かります。文字による説明で換気が必要であることも示されています。
しかしながら、実際には、クリーナーを本来の使用目的ではないラベル剥がしのために室内で使用し、スプレー後に溶剤蒸気が滞留している床付近に顔を近づけて作業したことから、高濃度の有機溶剤を吸い込んだと考えられます。
追加の作業のため、手近にあるクリーナーを呼吸用保護具なし、十分な換気なしで使用したために事故が発生しました。換気扇は通常、高い位置に設置されています。有機溶剤は空気よりも密度が大きく低いところに滞留しやすいので、換気扇では床付近にある有機溶剤の排気にあまり有効でないことに注意が必要です。
なお、絵表示の④は環境への影響を表しており、排気後の大気への放出や排水への排出に留意する必要があります。

 

【対策】
  • 事前の準備なしに室内で有機溶剤などを含むクリーナーを使用しないでください。
  • 使用するときには、十分な換気が行われる様にし、換気扇を信用しないでください。
  • やむを得ず換気の悪い場所で有機溶剤が含まれているスプレーを使用する時は、呼吸用保護具を着用してください。

  

有害性に起因する事故事例(2)

セメントやモルタルは、建設・建築では粉状の製品、あるいは、あらかじめ水で練られたコンクリートとして広く用いられます。構造物が必要とする性質により、ポルトランドセメント、高炉セメント、中庸熱フライアッシュセメントなど多くの種類があり、成分が様々です。
主たる成分は、酸化カルシウム、シリカ、アルミナなどからなっており、一般的な絵表示としては、図の2.と3.が示されます。主成分の酸化カルシウムは水と接触すると強いアルカリ性を示す水酸化カルシウムとなり、皮膚や眼をひどく損傷します。⻑靴に穴が空いていたり、口の部分が開いているとコンクリートが入り込み、靴を履き替えたりせずにそのまま作業を続けていると、作業後に足の皮膚がひどく損傷し、最悪の場合には完治までに数ヶ月を要するやけど(薬傷)の状態になります。
また、セメントやモルタルは粉体であり、袋から取り出すときに粉が舞うため、眼に入ると眼の中でアルカリ性になり、眼を損傷します。手袋や作業着の中に入り込んで汗で濡れると、やはり強いアルカリ性となり皮膚を損傷します。防じんマスクをせずに吸入すると気道や気管支、肺まで入り込みます。⻑期間に渡って繰り返して吸入することにより、⻑い期間を経た後にじん肺や肺がんを引き起こします。

【対策】
  • 粉体を使用するときは、防じんマスク、ゴーグル型保護メガネ、粉体が通らず強度のある手袋(ゴム手袋など)、取扱量が多いときはタイベックのような粉じんを透過しない防護服を着用して、作業着を汚染するのを防ぎます。作業着に大量のセメントなどが付着すると、着替えの際に更衣場所を汚染するなど汚染の範囲を広げてしまいます。家庭まで持ち込むことがあるので注意を要します。
  • 水を加えて練る作業やコンクリートを使用する作業では、ゴーグル型保護メガネ、水が通らないゴム手袋、ゴム⻑靴を着用します。
  • 靴の履き口や手袋の口から粉やコンクリートが入らないようにします。内部に入ったときにはすぐに脱いで、皮膚を大量の水で洗浄します。薬傷が見られたら、すぐに病院に行ってください。