保護具着用管理責任者について 6(防護手袋)

化学防護手袋
化学物質に対して防護を行うのであれば、その化学物質に特化した防護手袋が必要となります。
有害な化学物質による健康障害は、経口暴露(口や鼻から吸い込むこと)によって引き起こされることが一般的です。
しかし、それ以外の暴露原因として、経皮暴露(皮膚に接触し体内に吸収されること)によるものが挙げられます。
作業時に防護手袋を装着しない、または作業に適さない手袋を使用した場合、知らないうちに有害な化学物質が体内に取り込まれていきます。
その結果、気が付いた時には、重大な健康障害を引き起こしてしまっていることもあり得るのです。

2015年に、福井県の工場で発がん性物質である「オルトールイジン」に経皮暴露し、膀胱がんを発症した事例が発生しています。
その事故を発端に、厚生労働省から、「化学防護手袋の選択、使用等について」(平成29年 1月12日 基発0112第6号)が公示され、留意事項が示されています。
この通達が公示されたことにより、事業者の有害な化学物質への対策は急務となっています。有害な化学物質から身体を守り、健康障害にならないために、正しい防護手袋を着実に装着するよう心掛けてください。

■化学防護手袋とは

「JIS(※1) T 8116:2005」の規格に適合した手袋のことです。また、酸・アルカリ・有機物質、その他の気体・液体・粒子状の有害な化学物質を取り扱う作業に着用し、化学物質の透過(※2)または浸透(※3)を防止する手袋のことを言います。

※1 JIS(日本産業規格):主務大臣が制定する規格であり、日本の国家標準の一つ。
※2 透過:材料表面に付着した化学物質が、吸収され、内部に分子レベルで拡散を起こし、裏面から離脱すること。
※3 浸透:物体の隙間をすり抜けて、化学物質が通過し、内側に入り込むこと。

 

化学防護手袋の正しい選択及び使用方法

■使用可能時間の設定

化学防護手袋が、使用する化学物質にどの程度対応できるかを確認してください。
確認の方法は、以下のとおりです。

1)取扱説明書等に掲載されている耐透過性クラス等を参考にする。
  JIS規格では、「透過速度に基づく破過時間による耐透過性の分類」のとおり、クラスは1~6に分類されます。
2)メーカーが開示している化学物質耐透過性試験結果等を参照する。
3)取扱説明書への記載、データ開示がない場合は、メーカーに問い合わせる。
  その情報をもとに、使用可能時間をあらかじめ設定してください。

■使用前

使用都度に、傷、穴あき、亀裂等の外観上の問題がないことを確認してください。異常が見つかったものは、新しいものに交換してください。

■使用中

あらかじめ設定した使用可能時間に達した場合は、使用を中止してください。十分に安全を考慮し、早めに交換してください。

■使用後

化学防護手袋の脱着時は、手袋に付着している化学物質が、身体に接触しないようにしてください。
できるだけ化学物質の付着面が、内側になるように外してください。また、手袋に付着した化学物質は、作業を中断しても透過し続けますので、その点にも注意してください。
 

【透過速度に基づく破過時間による耐透過性の分類】
クラス 平均標準破過点検出時間[min]
6 >480
5 >240
4 >120
3 >60
2 >30
1 >10

化学防護手袋のまとめ

健康障害を防止するためには、有害な化学物質に暴露しないことが重要です。防護手袋は、種類によって防護性能、作業性、強度も変わります。そのため、有害な化学物質のことをよく知り、作業に適した化学防護手袋を選択する必要があります。
また、化学防護手袋にも様々な種類があり、滑り止め付き、薄手、厚手等のようにそれぞれ特長があります。用途に合わせたアイテムを適切に選択し、使用することで、有害な化学物質から身体を守りましょう。

建設現場でよく見かけるのが、セメントによる手荒れです。

セメント皮膚炎 (Cement contact dermatitis)

セメントは土木・建設現場で多用される材料であり、擦過作用、吸湿性、強いアルカリ性を有します。
そのため、セメントによる皮膚傷害には

1)乾燥したセメントの粒子により皮膚の表層が削り取られたり、皮膚の水分が吸い取られる為に生じる機械的・乾燥性皮膚傷害
2)セメントが吸湿した後に水酸化カルシウムを放出して強アルカリ性になり、そのために生じる化学熱傷
3)セメント中に微量に含まれるクロムなどによるアレルギー性接触皮膚炎

があります。
従って、水と混和する前のセメントが付着した状況が続くと上記の可能性がある為、セメントを取扱うときには、目・鼻や皮膚へのセメントの接触を避けるための適切な保護具(手袋、長靴、保護メガネ、防護マスクなど)を着用する必要があります。また、取扱い後には顔、手、口などを水洗して残留物を残さないようにすることが肝要です。
また、セメント取り扱い作業者は、セメントが長靴や靴下に付着しても履き替えないまま作業を続行し、長時間経過して症状が発症して気付いたり、膝着き姿勢で接触部位に症状が出現することもあるので、注意が必要です。
モルタル分、水分が侵入しないゴム手袋を使用することです。