保護具着用管理責任者について11(防毒マスク)

吸収缶の破過とは

防毒マスクの吸収缶は使用することで、その中の薬剤は時間とともに少しずつ劣化していくため、ガスを吸収する能力はどんどん落ちて最終的には十分に除去できなくなります。この現象を「破過」といいます。
破過を起こすと、防毒マスクの吸収缶に有毒ガスを通した際、透過側(顔側)から最高許容透過濃度を超える有毒ガスが出てきてしまいます。破過になった吸収缶を使い続けると、健康面で支障が出てくるので注意が必要です。

破過曲線

ガスを吸収できる能力は、吸収缶ごとに定められています。その能力の持続性は、ガス濃度と使用時間の相互関係で決まります。
高濃度のガスを吸い続ければ、吸気缶は短時間で使えなくなります。低濃度であれば、長く使えます。この、ガス濃度と使用時間との関係を表すものが破過曲線です。

【ガス濃度と使用時間の破過曲線】

ガス濃度と有効時間
縦軸はガス濃度を、横軸は吸収缶の有効時間を表しています。
例えば、300ppmのガス濃度の環境で防毒マスクを使うと、200分経過すれば破過するということが分かります。ガス濃度がもう少し高い800ppmの場合は、75分で破過することが読み取れます。
つまり、ガス濃度が高くなったことにより、有効時間が短くなるということが分かります。
しかし、実際に取り扱っている有機溶剤が上記の溶剤と異なる場合は、破過時間は分かりません。そこで、各有機溶剤の破過時間とシクロヘキサン(試験ガス)の破過時間の日を求めた相対破過比(RBT)を使用し計算が出来ます。各有機溶剤の相対破過比(RBT)は、次式により求めることが出来ます。

各有機溶剤RBT=ある有機溶剤破過時間/シクロヘキサンの破過時間

破過時間の予測

【シクロヘキサン(試験ガス)に対する有機溶剤の相対破過比(RBT)】
有機溶剤 RBT
メタノール 0.02
イソプロピルアルコール 1.2
1-ブタノール 1.8
アセトン 0.5
メチルエチルケトン 1.2
メチルイソブチルケトン 1.4
酢酸メチル 0.6
酢酸エチル 1.0
酢酸ブチル 1.3
トルエン 1.4
スチレン 1.7
二硫化炭素 0.4

破過時間には、有機溶剤の種類や作業場所の温度・湿度、それに作業者個人の呼吸量等が複雑に絡み合っているため、実際の吸収缶の破過時間を正確に予測することは容易ではありません。
しかし、有機溶剤を取り扱っている作業者が、ばく露している有機溶剤を確認し、シクロヘキサンの破過曲線図を用いて環境濃度から求めた破過時間にRBTを乗じることにより、実際に取り扱っている有機溶剤に対する破過時間を予測することができます。

(例-1)
作業環境測定の結果、アセトン濃度が30ppmである作業場の場合の破過時間を計算してみましょう。

  1. シクロヘキサンの破過曲線図より、シクロヘキサン濃度30ppmの場合の破過時間を求めるべきですが、読み取り出来ませんので、低濃度側で読み取り易い200ppmの場合の破過時間を求めますと、300分です。
  2. これにシクロヘキサンに対するアセトンのRBTである0.5を乗じて、アセトン濃度200ppmの場合の破過時間を求めます。
    300分×0.5=150分

  3. アセトン濃度が30ppmの場合の破過時間をA分とすると、
    200ppm×150分=30ppm×A分
    より、A=1000分となります。

【ガス濃度と破過時間の破過曲線】

ガス濃度と破過時間
※スリーエム ヘルスケア株式会社 有機ガス用吸収缶3001J-100の例 (試験ガス:シクロヘキサン)